講師Mのドイツ音大留学 ”なかなか聞けない留学体験記”③
〜ドイツ音大ピアノ留学③〜旅立ちの目的
世間では、音大ピアノ科に行っているというと、ピアニストまたはピアノの先生を目指しているという風になっています。それは別に間違いではないのですが、何がピアニストをピアニストたらしめるかという問いに答えられる人はあまり居ないのではないでしょうか。
音大に入ったくらいの頃は、実は殆どの人は世界の音楽家の様子、音楽界の仕組みは知りません。私たちは自分が生まれ育った国、文化、言語、風習しかわからないし、周りとのコミュニケーションと、与えられた環境の中で物事を判断しますから、クラシック音楽なんていう西洋の歴史そのものを最初から理解している人は少ないのです。
だから、目の前の曲をこなすという末端の出来事に目が行きがちで、音楽の起こりはなんなのか、なぜクラシック音楽にはルールがあるのか、調性とはなんなのか、何をもって和声と感情が結びつくのかという根本的な事を考える機会があまりないように思います。
「音楽はフィーリングだから、難しい理論は要らない。そんなものがなくても良い演奏はできる」
という意見もあると思います。
では、そもそもその全人類共通とされるフィーリングは、一体何から出来ているのでしょうか?
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昔の話に戻ります。
ピアニストを目指す、という事はどういう事なのか。何をどう達成すればピアニストになれるのか。私は一体何をしているんだろう…。
思考の沼地にドップリ浸かっていた当時の私は、自分の演奏のダメに嫌気がさして全てを投げ出したい気持ちと、いつか、あのピアニストのように弾くんだという気持ちの間で、非常に苦しみました。
その頃、ドイツの音大から日本に公開レッスンに来た教授のレッスンを受ける機会がありました。
正直、レッスンでの演奏の出来はそんなに良くなかったと思います。しかし数回のレッスン後、教授は言いました。
ドイツに来て勉強しますか?と。
早くこの沼地から脱出しないと、一生分からないままで終わる!そう思った私は、よく考えもせず、行きまーすと、今思えば何とも恐れ知らずで軽薄な返事をし、交換留学生としてドイツに渡る事になりました。
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