講師Mのドイツ音大留学 ”なかなか聞けない留学体験記”⑤

  〜ドイツ音大ピアノ留学〜出鼻は挫かれるもの〜

現地に着いてからしばらく、1番役に立ったものは、クロックスでした。

というのも、家の中でも土足で生活するのが主流のヨーロッパ。私がホームステイした先の家庭も例に漏れず、キッチン、バスルーム、ベッド周り、全て土足。

玄関マットで汚れを落とすとはいえ、土足で人の家を歩き回る事に抵抗があり、せめて割り当てられた寝室の中だけは土禁にしようと心に誓い、部屋の境界線にクロックスを置いて履き替える日々が始まりました。

 

さて、ドイツ語の話。

語学学校A1.1のコースを現地で受講し始めて数日して分かったのは、全員何も喋れないし、何かの単語を発音したとしても、各国の訛りが強すぎてどれもドイツ語に聞こえない、という事だけでした。先生の説明なぞ、一言も聞き取れる訳がない。休憩時間はみな英語を喋っているというカオスな状況。もちろん自分もそうです。単語を23つも繋げられないのですから、会話が成り立つ訳もありません。

 

これはひどい。

流石にこのまま新学期が始まったら、教授にそのまま熨斗つけて日本に送り返されるんじゃないかと思った私は、1週間をすぎた頃からホストファミリーと積極的に話すようになります。

食べ物の話、日本やアジアの話、電子辞書で素早く目当ての単語を打ち出し、肝心の文法は英語のまま、そこに単語を当てはめて喋るという謎の作戦で、かなりたくさんの単語と、ドイツ語の響きをとにかく聞きまくりました。電子辞書がなかったら、テンポよく会話するのは不可能だったと思います。ありがとう電子辞書。

 

勉強方法は間違っていたかもしれませんが、ある意味量はこなしてたのでしょう。しばらくすると、あちこちに聞き取れる単語が散りばめられていき、脳内で意味のある文章に組み立てられていきます。分からない部分は、妄想で補完です。不確かなのに、そんないい加減でいいのかって?大丈夫、この世に確かなものなんてありません。

 

単語を探して当てはめて、間違ってもいいからとりあえず何か喋るという方式が、全ての人に有効かどうかは分かりません。

私の場合は合っていたのか、会話の中から文法を感じ取れる事が増えていき、それが頭の中で体系的な動詞の変化や語尾の変化として結びついて行きました。

 

今となっては、英語を喋ろうとしてもドイツ語の文法しか出てこないので、英単語がわかったとしても、まともな英文にならないという逆転現象が起きています。両立させる才能はないようです。

 

さてドイツ語に光明が見えたような気がした週も終わり、サッカー観戦し、動物園に行き、アイスを食べ、ホストマザーが村の作品展のために作っている立体作品に色を塗って完成させた頃。

 

そういえば、ピアノ弾いてない。

新学期、レッスンが始まったら、一体何を弾くの?

ドイツ語のインパクトにやられ、ピアノの事もほぼ忘れていたトリ頭、なんとかして練習をしなければと焦りに焦りまくります。

ホストファミリーの家にピアノはない。語学学校にもない。あと3週間、どうするんだ

 

血迷った私は、少し歩いた所にある教会に押し入り、おじいちゃん管理人を捕まえてここのピアノ弾かせてくださいと半泣きで頼み込んだのでした。

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