講師Mのドイツ音大留学 ”なかなか聞けない留学体験記”②

 〜ドイツ音楽ピアノ留学〜はじまり

6年前。

私が音大のピアノ科の学生として、何やら意味不明な忙しい毎日を送っていた頃の話です。

これは脚色でもなんでもなく、敢えてこう書いたのですが、実は現役音大生でこのフレーズに共感してくれる人は多いんじゃないかと思っています。

 

音楽を学ぶと決めたはいいものの、一体自分が何をやっているのかわからない。

が、毎週のレッスンに追われて何故か忙しい。

 

という音大生は、実は凄く多いんじゃないかと思います。小さい頃に習い事として始めた人が大部分だと思いますが、気がつけば生活の一部になり、練習や発表会を通じ、ピアノを弾くということが日常の当たり前の行為として受け入られてきたと思います。

 

その中で「学問として、学業としてやってみよう」と思って音大に入る。

授業に出席し、毎週の課題をクリアし、レッスンに行き、ああでもないこうでもない、と言われながら曲を完成させ、時にはアンサンブルや伴奏をして、定期的にあるコンサートや試験の準備をする。

音大に入ってすぐ、この一連の流れに疑問を抱くことはあまりないと思います。先輩達もそうしてキャンパスライフを送っていますし、先生からも毎週のレッスンを大切にと、そして真面目に練習をしなさいとメッセージを受け取ります。それが普通なんだ、と感じると思います。

 

しかし私は疑問を持っていました。

一応教職科目を取ってみたものの、これは自分の目指すものではないと、最初の授業で感じてしまいます。

 

毎週のソロのレッスンは実りあるもので、これは後で登場する恩師の話になってしまうのですが、こんなピアニスト、ピアノの先生になりたいと思わせてくれる心に残るエピソードが沢山ありました。(後々紹介します)

 

それとは別にアンサンブルのグループレッスンという、やや緊張を強いられる科目や、一般教養の科目、気づかなかったことを学べる連弾、コンチェルトの授業などもあり、カリキュラムはとても充実していました。通学時間が長かった事もあって、練習とレッスン、そして通常科目と教職科目で朝から晩まで一休みもないという日々を繰り返していました。

 

こうして2年半が経ち、勉強している曲をユーチーブで聴いていたところ、あるピアニストの手が殆ど動いていない事に気付いたのです。

 

一体何を言っているの?ピアノを弾くんだから指は忙しく動いていて当然でしょ?と思われるかもしれません。

確かに指は動いているけれど、速い曲にも関わらず、1つの動きの中にあって、フレーズも1つの塊で聞こえてくる。

 

確実に何かが違う、周りの音大生のコンサートでよく聞く普通の演奏じゃない。何か重大なものが違うから、出てくる音楽が違うんだ。

 

ふと、自分が演奏している様子を鍵盤の横から録画してみると、指をバタバタと上げ下ろし、手首はカチカチ、腕は上下、リズムは詰まっているし、表情をつけているつもりなのに、強弱に変化はあっても、音色に変化は殆どありません。

 

そう気づいた時に音楽の聴こえ方が変わったのを、あの鳥肌がたつような感覚を、今でも覚えています。曲を再生すれば、今まで通り「ドレミ」で聞こえる。今まではそれで終わっていたのが、「ドレミ」中の意味も聞こえるようになったんですね。なぜ「ドレミ」に意味ができたか、それは、そのピアニストのピアニズム、つまり彼の言語の一端に気づいたからだったのです。「ドレミ」を、独立した「ド」「レ」「ミ」ではなく、ひとまとまりの響きとして聞こえるように弾くから意味があるんだ。今まで私が弾いていたメロディは一体何だったんだろう

 

そんな事を考えながら、毎週の課題をこなしレッスンを重ねれば重ねるほど、自分とそのピアニストの差が広がっていくのを感じていました。

 

と、同時にレッスンで先生が何を求めているかを感じられる事が増え、イメージは出来るのに、そのイメージを音にする方法が分からなくてどう練習したらいいかもわからないという泥沼にハマっていきます。

 

レッスンを受けて言われたことを守って弾けばピアノが上手くなるわけじゃない。それに気づいた私は、本格的に迷子になってしまったのです。

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