講師Mのドイツ音大留学 ”なかなか聞けない留学体験記”⑦
〜ドイツ音大ピアノ留学⑦〜現実〜
教授のレッスンを何回か受けて分かったことは、自分が何も知らないという事でした。
アダムとイブもびっくりするくらい無知な状態でのこのことやってきた私の目に映ったのは、当たり前のようにドイツ語で討論するスペイン、ロシア、ポーランド等から来た学生たち。
個々のレッスンでも、クラス内の発表会でも、彼らは自分の事をよく知っていて、自信に満ち溢れていました。
指が速く動くかとか、大きな音が出るかとか、ミスの有無ではない、彼らは自分の言葉で何かを語ることができている。私が今まで一生懸命指を動かしていたのは何か別の作業をしていたんだ、と実感し呆然としていた頃、ある日本人の先輩の演奏を聴く機会がありました。
私、こういう音を出したいんだ!
直感でした。この先輩の出す一音一音そのものが、私が何年か前にユーチ◯ーブで衝撃を受けた一音一音にそっくりだったのです。
何かが鍵盤から立ち昇っている。1つ1つの音はクリアに輝いているけれど、脈絡なしに生み出されるわけではなく、大きなグループの中で混ざっている。
この何かが「響き」なんだと、ついに私の耳はその正体を捉えることが出来たのです。
と、同時にますます我が身に沁みる各国の学生との差や、先輩との違い。毎日、自分が何も知らないという事を知るだけの日々。強制ソクラテス状態です。
一晩でその差が埋まるはずがありません。相変わらず、授業は半分も理解できず、一体何が起こってるのか不明。教授のレッスンは、指示は分かるようになり、少しずつ改善はできても、その先がない。
教授の顔に失望の色が浮かんでいるのが、わかりました。
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